英語名 / 略字
Exchange Information Requirements / EIR
出典
ISO19650-1:2018 3.3.6
規格での説明(原文)
information requirements in relation to an appointment
規格での説明(日本語)
発注又は受託に関連する情報要求事項
説明
発注組織の情報交換要求事項(EIR)は、発注組織が入札の段階で、元請受託組織候補に対して示す、情報生産に関する要求事項です。発注組織は、「評価及びニーズ」の活動において、プロジェクト全体の情報要求事項、情報標準、情報生産手法及び手順、参照情報及び共有資源などを定めます。情報交換要求事項(EIR)は、これらを基に、各受託範囲に必要な情報要求事項を具体化したものです。
例えば、発注組織が実施設計段階において、意匠・構造設計と設備設計を分けて発注する場合、それぞれの受託範囲で必要となる情報は異なります。そのため、意匠・構造設計に対するEIRと、設備設計に対するEIRでは、その内容が異なる場合があります。したがって、情報交換要求事項(EIR)は、プロジェクト全体に対して一度だけ設定するものではなく、発注組織が受託ごとに設定し、入札招請の際に元請受託組織候補へ示すものです。
また、情報マネジメントプロセスでは、発注組織だけでなく、元請受託組織も、自らが発注する受託ごとに情報交換要求事項を設定します。元請受託組織の情報交換要求事項は、発注組織のEIRのうち、その受託組織の受託範囲に関係する内容に、元請受託組織からの要求事項を加えたものです。これにより、発注組織の情報要求事項が、デリバリーチームを構成する各タスクチームまで整合的に展開されます。

情報交換要求事項(EIR)では、受託範囲について、次の内容を定めます。
- 意思決定ポイントにおいて必要となる情報要求事項
- 各情報要求事項に対する必要情報詳細度
- 各情報要求事項に対する受入基準
- 情報要求事項又は受入基準を理解し、評価するために必要な補助情報
- 情報要求事項を満たすべき期日
発注組織は、組織情報要求事項(OIR)、資産情報要求事項(AIR)及びプロジェクト情報要求事項(PIR)を踏まえ、受託範囲に必要な情報要求事項をEIRとして具体化します。EIRは、元請受託組織候補に対して、何のために、どのような情報が必要であるかを示し、デリバリーチームにおける情報生産の起点となります。
必要情報詳細度は、それぞれの目的を達成するために必要となる情報の品質、量及び粒度を定めるものです。これにより、必要以上の情報を作ることや、意思決定に必要な情報が不足することを防ぎます。
受入基準は、納入された情報を発注組織又は情報の受領者が受入可能と判断するための条件です。例えば、次のような内容が考えられます。
- 要求された情報の内容、形式及び必要情報詳細度を満たしていること
- プロジェクトの情報標準に適合していること
- 定められた情報生産手法及び手順に従って作成されていること
- 必要な確認、レビュー及び承認が完了していること
- 参照情報及び他の情報コンテナとの間に不整合がないこと
プロジェクトの情報標準、情報生産手法及び手順、参照情報並びに共有資源は、情報要求事項を理解し、情報を生産するためにありますが、これらに適合していることを、EIRの中で、情報の受入基準として定めることができます。
情報要求事項を満たすべき期日は、プロジェクトの意思決定ポイント及び情報納入マイルストーンと関連付けて定めます。これにより、いつ、どのような意思決定を行い、そのために、どのような情報が必要になるのかを明確にします。
したがって、EIRは、「何のために、どのような情報が必要か」「どの程度の情報が必要か」「どの基準で受け入れるか」「いつまでに納入するか」を、受託ごとに一体的に定める要求事項です。
解説
日本では、BIMを「属性情報を持った3次元モデルを作成し、活用すること」と捉えることがあります。そのため、EIRを「顧客情報要件」又は「発注者情報要件」とし、発注組織が元請受託組織に対して要求するBIMモデルの仕様や、その活用方法を示す文書として扱う例が見られます。そのようなEIRの書式も、いくつか用意されているようです。
しかし、ISO 19650-2の情報マネジメントにおける情報交換要求事項(EIR)は、BIMモデルの仕様や活用方法だけを定めるものではありません。ISO 19650-2は、BIMモデルを扱う活動だけでなく、設計・施工全体の情報マネジメントを対象としています。対象となる情報には、3次元モデルだけでなく、図面、文書、表形式データ、画像など、設計・施工において管理すべきさまざまな情報コンテナが含まれます。したがって、すべての情報を3次元モデルとして作成することを要求するものではありません。
ISO 19650-2の情報マネジメントプロセスでは、「5.1 評価及びニーズ」において、プロジェクト全体の情報要求事項、情報標準、情報生産手法及び手順、参照情報、共有資源、CDEに関する要求事項など、情報マネジメントの基盤が作られます。情報交換要求事項(EIR)は、このプロジェクト全体の基盤を用いて、各受託範囲に必要な情報要求事項を具体化したものです。そのため、受託範囲が異なれば、EIRの内容も異なります。
さらに、元請受託組織は、デリバリーチームを構成する各受託組織に対して、自らの情報交換要求事項を設定します。これにより、発注組織のEIRが、そのまま一律に下位の組織へ渡されるのではなく、それぞれの受託範囲に必要な内容として具体化され、各タスクチームまで整合的に展開されます。
日本で用いられてきた発注者情報要件(EIR)は、プロジェクト共通の一つの文書として扱われる例が多くあります。一方、ISO 19650-2のEIRは受託ごとに設定されるため、同一プロジェクト内でも、受託範囲に応じて複数のEIRが存在します。
発注組織の情報交換要求事項(EIR)は、デリバリーチームの情報生産に対する要求事項です。元請受託組織候補は、このEIRを受けて、要求された情報をどのような体制、方法及び手順で生産するのかを検討し、BIM実行計画(BEP)などの情報生産計画に反映します。このため、EIRとBEPは別々の文書ですが、その内容は密接に対応しています。EIRが情報生産に対する「要求」を示し、BEPがその要求に対する元請受託組織側の「対応及び実行方法」を示すという関係にあります。
なお、日本で「顧客情報要件」又は「発注者情報要件」と訳されてきたEIRは、ISO 19650の前身規格であるPAS 1192-2のEmployer’s Information Requirementsに由来します。PAS 1192-2は廃止され、ISO 19650では、EIRはExchange Information Requirements、すなわち「情報交換要求事項」と定義されています。日本での発注者情報要件とISO 19650による情報交換要求事項は、同じ略字を用いていますが、その英語名称と、情報マネジメントプロセスにおける位置付けは異なります。
掲載日
2026年8月5日
担当者
伊藤久晴