英語名
Information Requirement
出典
ISO19650-1:2018 3.3.2
規格での説明(原文)
specification for what、 when、 how and for whom information is to be produced
規格での説明(日本語)
何を、いつ、 どのように、誰のために情報を生産するかの仕様
説明
ISO 19650における情報要求事項(Information requirements)は、資産(建物)の設計・施工および運用に関わるすべての活動の起点となるものです。そのため、これらはプロジェクトの開始前に定義される必要があります。
情報要求事項は単一のものとして存在するのではなく、組織情報要求(OIR)・資産情報要求(AIR)・プロジェクト情報要求(PIR)といった複数のレベルで定義され、それぞれが相互に整合した形で構成されます。これらは統一された方向性のもとで整理される必要があります。なぜなら、設計・施工・運用といった各受託組織に対して、矛盾のない一貫した要求を提示する必要があるためです。
これらの情報要求事項に基づき、設計・施工などの業務の入札段階において、受託範囲ごとに情報交換要求事項(EIR)が設定されます。EIRは、情報要求事項を実際の情報交換に適用するために具体化したものであり、各受託範囲に応じて設定されます。
情報要求事項とは、「何を、いつ、どのように、誰のために情報を生産するのか」を明確に定義するものであり、単なる目標ではなく、受託組織に対して具体的な情報の作成・提供を求める仕様として提示される必要があります。

図に示すように、情報要求事項は、OIRを起点としてAIRおよびPIRへと進行し、それらに基づいてEIRが設定されます。さらにEIRに従って情報が生産され、プロジェクト情報モデル(PIM)および資産情報モデル(AIM)として成果化されます。この一連の流れは時間軸に沿って進行し、情報要求事項が徐々に具体化され、情報成果物へと変換されていくプロセスを示しています。
また、ISO19650-5 におけるセキュリティ志向のアプローチを適用する場合には、これらに加えてセキュリティ情報要求事項(SIR)も定義される必要があります。
解説
情報要求事項は、運用段階のためだけに定義されるものではなく、設計施工段階においても重要な役割を果たします。設計施工においても、どの段階でどのような情報が必要となるのかを明確に定義しておかなければ、設計の手戻りや情報の不整合が発生し、結果としてコストの増加や工程の遅延につながります。そのため、情報要求事項は設計施工段階の意思決定を支える基盤としても機能するものです。
一方で、運用段階の情報要求事項を設計施工の前に作成する必要がありますが、これを実務で実現することは難しいように思われるかもしれません。日本では、設計施工が完了した後に、そのBIMモデルなどの情報をどのように運用段階の維持管理に活用するかを検討するケースが多く見られます。しかし、このように設計施工段階で運用への接続をあらかじめ計画していない場合、それらの情報を運用段階につなげることは極めて困難です。なぜなら、設計施工を担当した企業は、運用段階のために情報を提供する契約を締結しておらず、その履行義務を負っていないためです。
そのため、運用段階でどのような情報が必要となり、どのように施設を運用していくのかを、あらかじめ定義しておくことが重要となります。例えば、設備の保全計画を考えた場合、どの設備を対象とし、どのような点検や更新を行うのか、またそのために必要となる情報は何かを事前に定義しておく必要があります。具体的には、機器の型式や性能、設置位置、メーカー情報、保証期間、交換周期、保守履歴の管理方法などが挙げられます。これらの情報が設計施工段階から整備されていなければ、運用段階において必要な情報を再度収集・整理する必要が生じ、結果として多大な手間とコストが発生します。
また、エネルギー管理を目的とする場合には、各設備やゾーンごとの消費エネルギーの把握方法や、計測データの取得条件、分析に必要な属性情報などを事前に定義しておく必要があります。これらが設計段階で考慮されていなければ、計測機器の追加やシステム改修が必要となり、後から対応することは極めて非効率となります。
このように、運用段階で必要となる情報は、設計施工の成果物から自然に得られるものではなく、あらかじめ情報要求事項として定義し、それに基づいて計画的に情報を作成していく必要があります。すなわち、運用段階のための情報は、設計施工の「結果」ではなく、「目的として先に定義されるべきもの」です。
この考え方に基づくと、情報要求事項は単なる仕様書ではなく、設計施工から運用までを一貫して貫く情報マネジメントの基盤となります。そして、その情報要求事項を実際の情報交換に適用するために情報交換要求事項(EIR)が具体化され、デリバリーチームはこれに基づいて情報のデリバリーを実施します。したがって、情報要求事項とは、設計施工段階の成果物を単に受け渡すのではなく、運用段階で必要となる情報を確実に成立させるために、どのような情報を、いつ、どのように生産し、提供するかを定めるものであるといえます。これに基づき計画的に情報のデリバリーを実施することにより、設計施工と運用の断絶を防ぎ、資産のライフサイクル全体にわたって情報を有効に活用することが可能となります。
掲載日
2026年4月30日
担当者
伊藤久晴